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猫の高分化型消化器型リンパ腫

文案:大重 監修:宍倉

2020.7.16

猫

はじめに

 リンパ腫とは白血球の一種であるリンパ球が腫瘍化する病気であり、いわゆる「血液のがん」です。リンパ腫は猫の腫瘍性疾患で最も発生頻度が高いことが知られています。ただし、リンパ腫にも様々な病型があり、発生部位や症状、悪性度、進行速度、治療法、予後などはそれぞれ大幅に異なります。今回紹介する「猫の高分化型消化器型リンパ腫」は、猫のリンパ腫全体の10-13%を占め、中高齢の猫において良く遭遇します。なお、猫のリンパ腫では猫白血病ウイルス(FeLV)の感染が発生に関与するものがありますがこのタイプでの関与は否定的です。


 一般に腫瘍細胞は未熟(未分化)なほど細胞の分裂、増殖のスピードが速く悪性とされています。「猫の高分化型消化器型リンパ腫」は文字通り、消化管に限局したリンパ腫細胞の増殖があり、その腫瘍細胞は比較的成熟(=高分化)し、増殖活性の低い傾向にある腫瘍です。このため慢性かつ緩徐に進行する消化器病といった特徴を示し、初期症状に気付きにくく見過ごされてしまうことが少なくありません。しかし、他の多くの腫瘍と異なり、適切な治療を行えば85%以上の確率で症状の改善が得られ、良好な予後が得られると知られています。完治は困難ですが、早期発見と適切な治療によって寛解=生活の質を落とすことなく寿命を全うできる可能性があるのです。

症状

 主にみとめられる症状は、慢性、つまり1か月以上に及ぶ下痢、嘔吐、食欲低下、活動性低下、体重減少です。時に多食も報告されています。ただし、これらの症状がほとんど認められない場合もあり注意が必要です。高齢猫での体重減少や、一般的な治療を行っても改善しない下痢や嘔吐では特に高分化型消化器型リンパ腫の可能性を考えます。

診断

 進行した症例では身体検査で削痩や脱水、消化管の瀰漫性の腫脹などを検出できる場合があります。血液検査ではアルブミンの低下や軽度の貧血以外に目立った異常がないことが少なくなく、一部の症例に電解質異常、シアノコバラミンの低下、肝酵素上昇、高Ca血症などを認めます。腹部レントゲン検査や腹部超音波検査では約半数の症例に軽度な消化管の腫大・肥厚と周囲の腸間膜リンパ節の腫大を認めます。しかし、これらは猫の高分化型消化器型リンパ腫にのみ起こる変化ではなく、あくまで疑いを強めるにとどまります。


 高分化型消化器型リンパ腫を疑う症例では、病理組織学的検査が最も信頼性の高い検査となります。全身麻酔下で内視鏡検査を行い、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸といった消化管の粘膜組織を一部採取し、病理医に組織診断を依頼します。内視鏡を用いた生検ではそれぞれの箇所から6-10回ほどサンプルを採取しますが、病変が深部にのみ存在する場合や、スコープの届かない空腸〜回腸領域のみに病変が存在する場合には診断に有用な組織が採取できないことがあります。その場合には開腹下での全層生検が必要となります。また、内視鏡検査によって得られたサンプルは通常の病理検査の他、特殊染色や免疫組織科学検査、遺伝子検査など更なる追加検査を行うことで診断の確実性をあげることができます。

治療

 猫の高分化型消化器型リンパ腫の85%以上は経口の抗がん剤とステロイドの投与により良好な治療反応を示します。経口抗がん剤にはクロラムブシルを用いますが、これは海外の製薬会社からのみ入手可能で、ときに供給が不安定となります。当院では比較的安定的に入手し、処方しています。


 クロラムブシルやステロイドは1日に1回〜数日に1回の頻度で内服し、病状や副作用の有無を検診しながら量を調節していきます。一般的に、治療が進んで行くにつれて薬は減薬していきますが完全に休薬できることは稀です。


 なお、治療導入期に状態が悪く、急性/慢性膵炎や胆管肝炎など併発疾患の有無によっては入院下で輸液や抗菌薬、強制給餌用の経鼻食道チューブを用いた栄養管理などを行うことがあります。


 診断・治療開始からの生存期間中央値は15-26ヶ月との報告もありますが、近年は1000日以上の長期予後も報告が増えています。当院でも、早期の診断と適切な治療によって5年以上元気に寛解状態を維持できている患者様がいらっしゃいます。

獣医師から

 近年、予防医療の進歩や食事の質、飼育環境の改善などによって伴侶動物として都心部で暮らす動物たちの平均寿命は格段に延びました。それに伴い、主要な死因に台頭してきたのが「がん」です。家族の一員である動物たちと一生を共にするうえで避けて通れない話題です。


 がん=腫瘍性疾患の治療法には以下の3つの柱があるとされています。
1.外科手術
2.化学療法
3.放射線治療
 これらの適応は腫瘍の種類や場所、重症度によって異なってきます。


 さて、今回ご紹介した「猫の高分化型消化器型リンパ腫」は白血球の一種が腫瘍化し、腸粘膜を侵していくタイプの腫瘍です。腫瘍化している領域と正常な組織の境界は不明瞭なため、原則的に外科手術や放射線治療は不適応となります。幸いなことに化学療法、すなわち抗がん剤が非常に良く効くうえ副作用も軽微なため、早期診断と治療ができればかなり長い間ご家族と生活を共にすることが可能です。


 先述のように、確定診断には全身麻酔下での精密検査を要するため、高齢な患者に全身麻酔をかけるなんて、と躊躇される方も少なくありません。当院では麻酔リスクの評価を十分に行い、必要に応じて全身状態を改善させたうえで検査麻酔を実施します。熟達した獣医師が内視鏡検査に要する時間は15〜30分と比較的短く、よほど状態が悪くない限り安全に行うことが可能です。繰り返しになりますが、猫の高分化型消化器型リンパ腫は治療への反応が良く長期間の予後も得られるため、全身麻酔下での精密検査を行う価値のある病気です。


 猫は毛玉を吐くなど嘔吐を比較的しやすい動物です。しかし、月に1ー2回以上の嘔吐が継続する場合などは何か病気が隠れているかもしれません。「いつものこと」「この子は昔から良く吐くから…」などと見過ごしてしまわず、一度獣医師にご相談ください。


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