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犬の急性膵炎

文案:大重 監修:宍倉

2020.8.4

犬

はじめに

 2014年、「君の膵臓をたべたい」というショッキングなタイトルの小説が話題を呼び、2017年には映画化もされました。2011年にはかのスティーブ・ジョブス氏が膵臓がんのために亡くなったことも記憶に新しく、また、過度の飲酒に起因する急性膵炎を発症した芸能人がニュースに取り上げられることもあります。


 さて、膵臓とはどんな臓器でどこにあり、どのような働きをしているかご存じでしょうか。今回は意外と知られていない臓器、膵臓の病気についてお話しします。


 犬の膵臓は右上腹部、胃から十二指腸に沿うように存在し、消化液の分泌や血糖値の調整などを行っている臓器です。後者の役割が異常を来すと糖尿病の原因になるわけですが、本題の「犬の急性膵炎」は前者により関連が強い病気です。

病態

 膵臓の膵腺房細胞から合成される蛋白分解酵素の前駆物質であるトリプシノゲンは本来、十二指腸に分泌されて初めて活性化されトリプシンとなり、消化能力を獲得します。急性膵炎はトリプシノゲンが何らかの理由で膵臓内で活性化されてトリプシンへと変化することで起こります。膵臓内で活性化されたトリプシンが少量であれば、膵分泌性トリプシンインヒビターという酵素がトリプシン活性を阻害するため膵臓は保護されます。しかし大量のトリプシンが活性化されると膵臓組織の自己消化が惹起され、その炎症が遷延して周囲に広がることで激しい腹痛や嘔吐、食欲不振などの消化器症状を引き起こします。重症化すると播種性血管内凝固から多臓器不全を併発し、致命的な状態に陥ることもあります。

疫学

 膵炎のリスク因子は肥満や食事(過食、高脂肪食)のほか、代謝異常を起こす病気、特に副腎皮質機能亢進症や甲状腺機能低下症、糖尿病などの内分泌疾患や心臓病、腎臓病との併発、ある種の薬剤、低循環など多岐にわたります。遺伝的素因として、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリア、コッカー・スパニエル、コリー、ボクサーなどの犬種は膵炎を発症するリスクが高いとされていますが、すべての犬種において発症の可能性があります。

症状

 犬の急性膵炎の典型的な症状は激しい嘔吐と食欲不振、腹部痛です。加えて下痢、沈鬱〜虚脱などの症状を示すこともありますが、初期には食欲や元気の消退、右上腹部に限局した痛みにとどまる場合もあります。


 伏せの姿勢からお尻だけをあげる祈りのポーズと呼ばれる姿勢が有名ですが、実際に見かけることはあまり多くありません。重症例では低循環性のショック、尿毒症、黄疸、凝固異常、呼吸不全など致命的な症状を認めることもあります。

診断

 上記のような急性の腹痛、嘔吐、食欲不振など急性膵炎を疑う症状を示し、かつ腸閉塞や胆囊疾患など同様の症状を示す病気を除外することで診断します。


 血液検査では白血球数の上昇や、急性炎症蛋白(CRP)の上昇、アルブミンの低下などが認められます。外注検査にはなりますが、高感度の検査として膵特異的リパーゼ免疫活性の測定も頻用されます。


 腹部レントゲン検査では消化管内異物や腸閉塞の除外、腹膜炎所見の有無などを判断します。短時間で緊急性の判断や障害部位のスクリーニングを行える非常に有用な検査です。


 腹腔内の詳細な評価には腹部超音波検査を用います。高性能な超音波検査機器と熟達した画像診断医は膵臓の異常を高感度で検出します。ただし、動物が痛みや興奮で暴れてしまう場合や、被毛がある場合、15kgを超える体格の場合などでは超音波検査の精度は著しく低下します。正確な検査のために、毛刈りや鎮静処置を行います。
 急性膵炎では膵臓の浮腫・腫大や周囲の腹膜炎像、腹水の貯留などが認められます。二次的な総胆管閉塞や消化管への炎症の波及もよく見られる所見です。膵嚢胞が認められる場合や、感染性の膵炎が疑われる場合には膵生検が必要となることもあります。


 さらに近年、米国コロラド州立大学から、造影CT検査における膵臓の評価が犬の急性膵炎の診断や重症度の判定に有用だと報告されました。造影CT検査では超音波検査で見落とされやすい合併症である門脈血栓などを高感度で検出することができます。人の膵炎診断にはCT検査がゴールドスタンダードであり、検査麻酔によるリスクよりも早期の確定診断によるメリットが上回ると判断された場合には、当院では即日CT検査を行うことが可能です。

治療

 残念ながら膵炎に特効薬はありません。急性膵炎においては、静脈点滴により循環血液量を回復・維持することにより、膵臓への灌流量を確保することが一番の治療となります。膵臓で活性化された炎症物質を希釈し、膵臓組織の自己消化を食い止めるために、入院下で過水和にならないギリギリを見極めながら数日間輸液治療を行うことが重要です。同時に、制吐薬や鎮痛薬、早期の低脂肪食給与を行います。自力採食が不可能な場合も多く、経鼻食道カテーテルからの栄養管理を必要とすることもあります。合併症を伴わず重症化していなければ、多くの場合これらの支持療法により良好な予後を得ることができます。


 近年、本邦で、初期の膵炎に用いる新薬が発売されました。従来の標準治療に加えて用いることで重症化を防ぐ可能性があるとされており、新薬で情報が少ない現状ではありますが、当院では状況によって使用を検討しています。


 併発疾患を伴う場合の急性膵炎の予後は警戒を要します。治療成績のみならず、治癒後の再発や慢性化などにも影響するため合併症や基礎疾患の管理は非常に重要です。

獣医師から

 急性膵炎は決して珍しい病気ではありませんが、ひとたび重症化すれば命を落とす可能性もある恐ろしい病気です。筆者が獣医師として初めて担当患者を亡くしたのもこの病気であり、その患者さんのことは一生忘れることはないでしょう。


 普段から人間の食べているものを与えたり、高脂肪のおやつを必要以上に与えたりすることは避け、適正な体重を維持することを心がけてください。肥満は病気であり、膵炎をはじめとした様々な疾患に悪影響を及ぼします。逆に言えば、普段から適切な食事・体重管理を心がけていれば様々な疾患のリスクが下がるのです。


 犬の急性膵炎は日々の体重/食事管理や基礎疾患の管理、早期の治療介入が叶えば救命率は高く、完治が見込める病気です。愛犬の急性の腹痛、嘔吐、食欲不振など、普段と異なる様子に気付いたら、間を置かず獣医師の診察を受けることをおすすめします。

急性膵炎の超音波検査

急性膵炎の超音波検査
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