ダクタリ動物病院

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異物誤食/消化管内異物/腸閉塞

ダクタリ動物病院東京医療センター 獣医師/内科部長 宍倉拓

 

犬

はじめに

 夜間救急動物病院で最も多い問い合わせのひとつが誤食に関するトラブルです。犬猫にとって毒となる食材を誤って食べてしまった場合や、消化できず危険なものを飲み込んでしまった場合など誤食のレパートリーは多岐にわたります。誤食してしまった物や量、飲み込んでからの時間などでそれぞれ対処が異なりますので、それぞれ紹介していきたいと思います。


 まず、誤食に関連するトラブルは以下のように分類されます。

分類

 これらに共通していることは、本来食べてはいけないものを食べてしまった場合に起こる「事故」であるということです。一部例外はありますが、あえて厳しい言葉で表現すると、誤食に関してはそのほとんどが飼い主の不注意や不勉強が原因であり、避けられるものです。ですので、本稿を読んで心当たりのある方はぜひ、日々の環境の改善をお願いできればと思います。

中毒

 犬や猫の中毒というと、チョコレートやタマネギが比較的有名でしょうか。その他、観葉植物の一部や人用の薬を誤食してしまうことも中毒の原因となり得ます。以下に、当院で遭遇することの多い中毒原因を列記いたしますので、動物の手に届く範囲にこれらの中毒物質がないかよく注意し、誤っても口にすることのないよう予防に努めましょう。


 食品系:チョコレートココア)、ブドウレーズン)、タマネギ、ネギ、ニンニクなどネギ類、マカデミアナッツ、アボカド、キシリトールカフェインアルコール類など
 植物系:ユリタバコ、アセビ、アマリリス、アサガオ、キキョウ、クリスマスローズ、スイセン、ソテツ、スズラン、ヒアシンス、ヒガンバナ、フジ、ポインセチア、ホウセンカ、モンステラ、ヤマゴボウ、ランタナ、ロベリア、ワラビなど
 人薬系:ロキソニンイブプロフェンなど非ステロイド系解熱鎮痛剤、アセトアミノフェン降圧剤、抗不整脈剤、抗不安剤、睡眠導入剤など
 その他:殺鼠剤、除草剤(農薬)など
なかでも遭遇頻度が高く、迅速に対処をしないと(したとしても)重篤な症状を呈してしまう可能性のあるものを赤字で示しました。時に命に関わることもあるのでこれらの物質を口にしてしまった場合は直ぐに動物病院へご相談ください。何を、どんな動物が、どのくらい食べたのかによって予想される重症度は異なり、必要な対処も変わってきます。インターネットで検索されるよりも、専門家である獣医師の判断を仰がれることをお勧めします。

異物誤食

 誤食で問題になるのは中毒物質の摂取だけではありません。梅の種やティッシュ、ボール、靴下などの布、プラスチック製品、針など、そもそも消化できないものを飲み込んでしまうことや、食品であったとしても体格に比べて大きすぎるものや多すぎる量を飲み込んでしまうことも良くある相談事由です。

 この場合、異物がどこにあるか、何であるか、どういう状態であるかによって重症度と対処法が大きく異なります。それぞれの場合について、簡単に記していきます。

食道内異物

 食道内に異物が詰まっている場合は緊急対処が必要です。
 小型犬がリンゴやから揚げなど人の食事を盗食したり、犬用の歯みがきガムなどを噛まずに丸呑みしたりすることによって食道内につっかえることが多いようです。食道内に異物が詰まると多くの動物は違和感を訴え、唾液をしきりに吐き出すなどの行動が認められますが、稀に最初のみ症状があるもののほとんど症状が分からなくなってしまう動物もいます。
 しかし、食道内に異物がある状態が続くと食道に穴が開いたり狭窄したりと非常に重篤な事態につながるため、これが疑わしい場合は可能な限り早い動物病院の受診をお勧めします。レントゲン検査で比較的容易に診断がつくため、早期発見が出来れば緊急内視鏡手術などで対処が可能です。

胃内異物

 胃内異物の症状は激しいものから軽微なものまで様々です。悪心や食欲不振、激しい嘔吐を認めるケースもあれば、全くの無症状ということもあり得ます。特に、誤食をした直後は何の症状も認めないことがほとんどです。しかし、胃内に異物があることが事実であれば、それは摘出しなくてはなりません。


 胃内に摘出すべき異物がある場合は、複数の治療法が選択可能です。
 一つ目は催吐処置です。胃の内容物は催吐用の薬剤を注射することで吐かせることができ、目的の異物も同時に回収できる可能性があります。ただし、針などの鋭利な異物は嘔吐の過程で体内に刺さってしまう危険があり、この処置を行うことは禁忌とされています。
 二つ目は開腹手術による異物の摘出です。この方法はほとんどすべての胃内異物を摘出することが出来る反面、全身麻酔下での開腹手術によって負ったダメージからの回復に数日を要することがあり、術創が治ったタイミングで抜糸が必要となります。
 三つ目は内視鏡を用いた異物摘出です。全身麻酔をかけて胃に消化管用の内視鏡を挿入し、鉗子で異物を摘出します。全身麻酔が必要にはなりますが、針など鋭利な異物も安全に摘出できることや、開腹せずに済み患者のダメージは最小限で済むことが大きなメリットです。ほとんどのケースで翌日には回復し、通常通りの生活に復帰できます。ただし、この方法で摘出できる異物の大きさや位置などには制限があります。

腸閉塞/穿孔

 異物が胃から小腸へ流れて閉塞や障害を起こしてしまうと、重症度は一気に跳ね上がります。食欲がなくなり複数回の嘔吐を認め、水を飲んでも吐いてしまい、ぐったりと元気がなくなることも少なくありません。
 ひとたび腸閉塞になってしまうと取り得る選択肢は原則開腹手術一択となります。
 催吐処置によって吐き出せるものは胃内容物だけであることや、内視鏡スコープは胃から出てすぐの小腸にしか届かず、仮に届いたとしても操作性が制限されリスクが高いことなどが理由です。また、閉塞した物の大きさや形状、閉塞してからの時間によっては消化管の一部に穿孔や壊死が起こることがあり、その結果細菌性腹膜炎を併発してしまうと、緊急手術をしても救命できない場合すらあり得ます。このような重症例では輸血や24時間看護、複数回の手術が必要とされます。一方で、腸閉塞を起こしてしまったとしても早期に診断、手術ができればほとんどのケースで良好な回復が得られます。



 異物誤食を疑う状況は、目の前で何かを誤食してしまった場合や誤食をした明らかな形跡がある場合などが分かりやすいかと思います。しかし、その心当たりがなくとも複数回の嘔吐や食欲不振、元気消失など様々な症状が異物誤食の結果起こることがあり、病院で検査して初めて誤食に気づくこともあります。繰り返しますが、誤食は防ぐことのできる事故であり、そのすべては「飼い主の責任」です。どうか、大切な家族の一員である動物たちが誤食で苦しむことのないように、いま一度生活環境を見直してみてください。そのうえで、もし誤食を疑う状況があれば、すぐに動物病院へご相談されることをお勧めします。誤食に限った話ではありませんが、早期発見・早期治療が非常に大切です。


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