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急性腎障害(AKI)

文案:増江 修正:大重(JAHA総合臨床医) 
監修:宍倉(JAHA内科認定医/内科部長)

猫と犬

はじめに

 急性腎障害(AKI)は、何らかの原因で腎組織が障害され、腎機能が急速に低下していく状態です。腎臓の主な働きは血液を濾過し体液の恒常性を保つことであり、AKIで腎臓の機能が障害されると血中老廃物の過剰な貯留(尿毒症)や電解質異常、重度の脱水など致死的な状況が起こり得ます。

 AKIの原因は、腎前性、腎性、腎後性に大別されます。
 腎前性とは、腎臓への血液供給が不十分になることで腎機能が障害される病態です。大量出血や重度の脱水、全身麻酔による血管拡張作用による腎血流量低下、心臓病による心拍出量の低下などによって起こります。
 腎性とは、腎臓そのものに損傷が起こることで腎機能が障害される病態です。細菌感染による腎臓広域の障害(腎盂腎炎)や、腫瘍や中毒などによる尿細管(原尿の再吸収や分泌をおこなう組織)の障害、自己免疫疾患や感染症などによる糸球体(微細な血管が集まった球状の組織で、血液をろ過する作用をもつ組織)の障害などが代表的です。なかでもネズミなど野生動物から感染するレプトスピラ感染症は致死的な腎障害を起こすため、自然豊かな環境で過ごす犬はレプトスピラ対応のワクチンを打つなどの予防措置がすすめられます。
 腎後性とは尿管、膀胱、尿道などの下部尿路系の異常によって腎機能が障害される病態です。結石による尿路の閉塞、腫瘍による尿路の圧迫、狭窄などにより、尿の出口がふさがれることによって生じます。若齢~中年齢の猫で好発し、早期の手術介入が必要とされます。
 急性腎障害(AKI)は早期に治療をおこなうことで致死的な状態を回避できることがありますが、深刻な急性腎不全へ進行して死に至るケースもままあります。また、腎機能は完全に回復せずに慢性腎臓病に移行する場合も少なくありません。

症状

 急激な元気食欲の低下や嘔吐がみられます。また、尿量が少なくなる(乏尿)、または尿が全く作られない(無尿)などの症状が現れることもあります。その結果、本来腎臓から排泄されるはずの毒素が体内に留まってしまい、電解質異常や高窒素血症へと至り、尿毒症症状である痙攣発作や虚脱を起こすこともあります。

診断

 血液検査にて腎臓の数値(尿素窒素、クレアチニン、SDMA)が高いときは腎機能障害が疑われます。他の検査や症状、経過から、慢性なのか急性なのかを判断します。急性腎障害を疑う際は、すぐにカリウムを含む血液中の電解質のバランスを確認します。腎障害が進行すると血中カリウム値が上昇して致命的な不整脈が起き、迅速な対処を必要とするためです。緊急処置により一時的に安定を得ることで、追加検査を行う時間を確保します。
 次にその原因(腎前性、腎性、腎後性)を判断するために尿検査、レントゲン検査、超音波検査などを実施します。これらの検査で腎臓自体の形や大きさ、構造に異常がないか、結石、細菌感染がないかなどを確認します。飼い主さんのご協力も重要です。詳しく生活環境などをお聞きし、腎性の急性腎障害の原因となる中毒を引き起こす物質を食べた可能性がないかを確認します。身近なものでは、人用の鎮痛剤や風邪薬などに含まれる非ステロイド系抗炎症薬(ロキソニン、イブプロフェンなど)、ユリ科植物、ブドウ(レーズン)、エチレングリコールなどの不凍液、重金属(鉛など)、ヘビ毒などが有害です。

IRISのAKIグレード分類

グレードⅠ >1.6 mg/dl 血中クレアチニン濃度が48時間以内に0.3 mg/dl以上上昇。
グレードⅡ 1.7-2.5 mg/dl 軽度の尿毒症。
血中クレアチニン濃度が48時間以内に0.3 mg/dl以上上昇。
グレードⅢ 2.6-5.0 mg/dl 腎実質の組織構造に進行性の重度の障害を受けている状態。
グレードⅣ 5.1-10.0 mg/dl
グレードⅤ >10.0 mg/dl

治療

 まずは水和状態の改善と電解質の是正を行いながら、腎機能を障害している原因を特定し、原疾患への治療を行います。
 腎前性であれば腎臓の血流量を維持するために状態に応じて輸液療法や昇圧剤、輸血治療を行います。点滴や昇圧剤の量は心臓の負担や失う水分量によって細かく変更していく必要があるため、入院下での静脈点滴が理想的です。場合によっては数日~数週間の入院が必要になることもあります。
 腎性AKIで比較的よく遭遇するのが中毒物質による腎障害です。この場合も同様に、まず輸液療法で腎血流量を支持し状態の安定化を得られるか試みます。ある程度の腎機能が残存していれば、尿が作られ体に溜まった尿毒症物質が排泄されるので、輸液療法を継続して尿細管の再生を待ちます。一方で腎障害が深刻で尿を作ることが出来ない(乏尿、無尿)場合、輸液療法をしても体がむくむばかりでより状況は悪化してゆきます。こうなると血液透析、腹膜透析などの腎代替療法を実施して腎臓の再生まで耐える必要があります。しかし、動物の透析は全身麻酔や輸血が必要となるなど、人の透析と比べると煩雑でハードルが高く、費用も嵩んでしまうが現状です。
 また、腎性AKIは細菌感染である腎盂腎炎やレプトスピラ症などが原因のこともあります。その場合は上記の治療に加え、抗生物質の投与が必要になります。
 腎後性AKIの代表的な疾患は尿路結石による閉塞です。この場合は閉塞部位の開通が必要となります。尿道閉塞の場合はカテーテルで閉塞を解除します。尿管結石の場合には、手術にて腎臓から膀胱へ尿が通るバイパスを設置するSUBシステム設置術、尿管から結石を摘出する尿管切開術、閉塞より近位の尿管と膀胱を直接つなぐ尿管膀胱新吻合術など状況に合わせた術式を選択します。
 何れの場合も、無事に退院することができたとしても腎機能の低下により慢性腎臓病へと移行し、自宅での皮下点滴や投薬などの治療の継続が必要な場合もあります。また、直ちに継続治療が必要とされない場合でも定期的な腎機能検査をおすすめします。

獣医師から

 急性腎障害は致死的であり非常に危険な疾患ですが、早期発見と的確な治療で致死的な状態を回避できるチャンスがあります。愛犬、愛猫に普段と違う様子がみられたら迷わず獣医師に相談してください。また、中年齢以上の子の場合は目に見える症状がなくても定期健診を受け、腎機能を把握することをおすすめします。
 予防的にできることもあります。レプトスピラは保菌動物の尿に汚染された水からも感染するため川など水辺によく行く場合はワクチンでの感染症対策をおすすめしています。
 また、飼い主さん自身がしっかりと腎毒性物質を把握し、愛犬、愛猫の届く場所に置かないようにすることも重要です。もし誤食をしてしまった場合にはすぐに近くの動物病院を受診し処置をしてもらいましょう。
 また、脱水にも注意が必要です。特に高齢動物は体の渇きを自覚することが出来なくなったり、喉が渇いていても体をうまく動かせず水を飲めなかったりして気づかないうちに脱水が進行することが少なくありません。梅雨から残暑までは熱中症による急激な脱水症状の患者さんが緊急受診することもままあります。物言わぬ動物たちの体調変化にいち早く気付けるよう、常日頃から目を配って“科学的に正しく”大切にしていきましょう。


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