狂犬病について

 狂犬病とは狂犬病ウイルスにより引き起こされる感染症で、人間を含めたすべての哺乳類に感染します。一度発症すると治療方法はなく、100%死亡する病気です。
 日本は狂犬病の発生がない清浄国とされていますが、一部を除く世界中の国では現在でも狂犬病の発生が認められ、毎年3.5~5万人が亡くなっています。

 狂犬病ウイルスは感染動物の唾液に含まれ、その動物に咬まれたり、傷口および目や口の粘膜をなめられたりすることで感染します。動物は足をなめるので、ウイルスの付着した爪で引っ掻かれても感染する可能性があります。体内に侵入したウイルスは神経を伝って脳に到達し、さらに各神経組織に伝って深刻な神経機能障害を引き起こします。ウイルスは脳から唾液腺に移動してさらに増殖します。

飼い主の義務

 狂犬病予防法では、犬の飼い主に登録・狂犬病予防注射の実施と、犬鑑札・注射済票の装着を義務付けています。狂犬病予防注射を多くの犬がすることで、万が一狂犬病が国内に侵入したとしても、国内での犬を介した狂犬病のまん延を防ぐことができます。
 生後91日以上の犬を飼い始めたら早めに区市町村の集合注射又は動物病院で、犬に狂犬病の予防注射を受けさせましょう。その後は、毎年1回、毎年4月から6月までの間に受けさせてください。予防接種を受けた際には動物病院から狂犬病注射予防済証が交付されるのでそちらをお住いの市区町村に提出し、注射済票の交付を受けてください。
 しかしながら中には重い免疫疾患を患っている、抗がん剤治療を行っている、重度のアレルギー体質である、など狂犬病の予防接種を受けるのに致命的なリスクを伴う犬もいるでしょう。このように正当な理由がある際には獣医師の判断で狂犬病予防注射猶予証明書を発行いたしますのでご相談ください。ただし狂犬病予防法ではワクチンは全頭接種が義務付けられているので猶予証明書は法的効力を持ちません。

感染したら

 感染から発症までの潜伏期間は咬まれた部位によって異なりますが、一般的に1~2か月と言われています。人間が感染すると、はじめは発熱、頭痛、疲労感などの症状がみられ、このときに咬傷部位の痛みやその周辺の知覚異常を伴います。脳炎を発症すると興奮や不安状態、錯乱、幻覚などの神経症状のほか、周囲の物事に極めて過敏になり恐水症あるいは恐風症*などもみられるようになります。やがて意識不明、昏睡状態となり、呼吸障害が現れ、死に至ります。犬が感染した場合には激しい興奮状態に陥り他者や物に対して攻撃的になる狂騒型、あるいは全身にわたって麻痺が拡がる麻痺型の症状が認められます。いずれにしても人間と同じように最終的には昏睡状態に陥り死亡します。
※恐水症/恐風症…水を飲もうとしたり、風が少しでも皮膚に当たったりすると、神経過敏によりけいれん発作を引き起こし、苦痛で水や風を恐れるようになる病気

治療・予防

 狂犬病が疑われる犬、猫、および野生動物にかまれたり、引っ掻かれたりした場合、まず傷口をしっかり洗い、医療機関を受診してください。一度発症すると治療法はないため、出来るだけ早く暴露後ワクチンを接種しなければなりません。暴露後ワクチンは接種開始日を0として3、7、14、30、90日の6回の接種を推奨しています。
 予防法としては海外に行った際にはむやみに動物に接触しないこと、現地の状況を考慮して必要であればワクチンをあらかじめ接種することが推奨されています。

最後に

 狂犬病は致死率が100%の非常に恐ろしい病気です。日本で発生がないのは犬を飼ってらっしゃる皆様の予防接種へのご協力により、徹底的な感染症対策が行われているからです。ただ多くの国ではまだまだ発生がみられ、いつどのような経路で日本に入ってきてもおかしくありません。万が一に備え、被害が最小限に抑えられるよう、必ず狂犬病ワクチンの接種を受けさせましょう。