不妊手術(避妊・去勢)

不妊手術(避妊・去勢)とは

避妊手術は女の子の卵巣のみ、もしくは卵巣と子宮を取り除きます。
去勢手術は男の子の精巣を取り除きます。
健康な愛犬・愛猫のおなかにメスを入れることに抵抗がある方も多いと思いますが、避妊/去勢手術は将来の病気を予防するというメリットもあります。大切な家族のために後悔のない選択ができるように、避妊/去勢手術について知識を深めていきましょう。

避妊・去勢に適した時期

避妊・去勢手術を行うタイミングは生後4~12ヶ月頃ですが、体格や性別により適期は異なります。女の子の場合は発情期を迎える前に避妊手術をしておくことで、乳腺腫瘍になる確率が格段に低くなることが報告されています。

メリット(女の子の場合)

避妊手術は希望しない妊娠を防ぐことに加え、発情サイクルによって生じる体調の変化や問題行動を予防することが出来ます。
また、女性ホルモンに関連して起こる卵巣の腫瘍の予防や、子宮蓄膿症、乳腺腫瘍などの病気の発生率を低下させることができます。

メリット(男の子の場合)

男の子の場合も早期に去勢手術をすることで発情によるストレスがなくなり、マーキングやマウンティング行為などの頻度が少なくなります。また、精巣腫瘍、前立腺肥大、肛門周囲炎、会陰ヘルニア、尿石症などの病気の予防になる点もメリットです。

避妊・去勢手術の注意点

太りやすくなる

避妊・去勢手術後は太りやすい傾向にあります。太りやすい原因は、ホルモンバランスの変化です。繁殖のために必要な性ホルモンが少なくなり、避妊・去勢手術前と比べると1日に必要なカロリーが8割前後に下がるため、カロリー過多となりやすい傾向があります。

尿失禁(女の子の場合)

性ホルモンが排尿時の筋肉のコントロールに関わっているため、避妊手術後は尿失禁が発生しやすくなると考えられています。

毛質の変化

ホルモンバランスの変化により毛質に変化が生じる場合があります。

骨成長のトラブル

一部の大型犬種、特にゴールデンレトリバー、ラブラドールレトリバー、ジャーマンシェパードなどにおいて、早期に去勢手術を行うことが関節疾患のリスクを増加させると言われています。したがって、これらの大型犬種では成熟した後(骨の成長が主な段階を過ぎた後)に去勢手術を検討することが推奨されています。

前立腺がんのリスク

前立腺がんは他の部位に転移することが多く、進行具合によって予後が大きく異なります。早期に発見し適切な治療を行うことが重要ですが、残念ながら前立腺がんの予防や完全な防止には去勢手術は有効ではありません。

手術の方法(女の子の場合)

摘出する部位の種類

避妊手術の方法は、卵巣と子宮を摘出する「卵巣子宮摘出術」、もしくは卵巣のみを摘出する「卵巣摘出術」の2通りがあります。現時点の報告では、卵巣のみの摘出でもその後の病気の予防効果に差が無いとされています。例えば、子宮疾患として代表的な子宮蓄膿症は黄体ホルモンであるプロゲステロンが原因とされ、卵巣を摘出すれば発生を予防できるものとされています。しかし、将来的に免疫抑制剤などを使用した場合は子宮蓄膿症などの子宮疾患を発症する可能性は完全には否定できません。当院では飼い主様とリスクを話し合いながら決めていきます。

手法の種類

女の子の場合、開腹手術もしくは腹腔鏡手術のどちらかを選択することができます。
腹腔鏡手術とは、従来大きく皮膚の切開をしていた避妊手術がわずか数mmの小さな切開を2~3箇所行うことで出来る方法です。
切開部から高解像度の腹腔鏡を挿入し、お腹の中を丁寧に観察しながら手術を行います。
避妊手術の対象となる卵巣は、靭帯組織によって身体の奥深くに固定されています。開腹手術の場合は、傷をなるべく小さくして、体外に卵巣を引き出して手術を行うため、靭帯組織が引き伸ばされ痛みが強くなるとともに、術後の不快感が高まります。
一方、腹腔鏡避妊手術の場合は、術中に卵巣を強く牽引しないことにより、術後だけでなく術中の痛みも緩和できます。開腹手術と比較して傷口が小さいため術後の痛みが少なく回復も早い傾向にあり、さらに術創の感染リスクが低下するとされています。
ただし、腹腔鏡手術は高価な手術機器を用いるため、開腹手術と比較して費用は高くなります。
当院では開腹手術、または腹腔鏡手術のどちらを選択した場合もシーリングデバイスや自己結紮を行い、体内に糸を残さない術式を実施しています。

手術の方法(男の子の場合)

去勢手術は、外科的に精巣付近の皮膚を切開して精巣を摘出します。
精巣は通常、生後6ヶ月齢くらいまでに腹腔内から陰嚢に下降します。これが正常に下降せず、腹腔内や鼠径部に留まってしまう状態のことを潜在精巣と言います。
小型犬に発生が多く、そのままにすることで精巣腫瘍の発生リスクが高まると報告されています。
当院では、潜在精巣が腹腔内にある場合、負担を最小限に抑えるために腹腔鏡を使用して摘出手術を行います。

獣医師より

健康な愛犬・愛猫のおなかにメスを入れることに抵抗がある方も多いと思いますが、当院では体にかかる負担を最小限にできる腹腔鏡手術もご検討いただけます。こちらで紹介した内容以外でも、避妊/去勢手術でお困りのことや不安なことがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。

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