椎間板ヘルニアについて、以前の記事から重要なアップデートがあったので改めて紹介します。以前の記事をまだ読んでいない方はそちらも目を通しておかれるとより理解が深まるかと思います。
→「椎間板ヘルニア」ページ
椎間板ヘルニアは、椎間板が脊髄神経側に突出して圧迫・障害することにより神経症状を起こす疾患です(図1)。
約15%が頸部、約85%が胸腰部に生じるとされており、HansenⅠ型とHansenⅡ型の二つの型に分類されます。
HansenⅠ型はミニチュアダックスフンドやビーグル、ウェルシュコーギー、プードルなどの軟骨異栄養犬種と呼ばれる犬種に多発し、多くは若齢で急性に発症します。椎間板の髄核が脊髄神経を圧迫します(図1A)。HansenⅡ型は主に加齢により線維輪が突出することで神経を圧迫します(図1B)。
図1:椎間板ヘルニアのイメージ
症状や犬種などから椎間板ヘルニアを疑う場合、まず身体検査で神経学的な評価や疼痛点の検出を行います。次に疑われる神経障害部位のレントゲン写真を撮影し、ヘルニア以外の骨折や腫瘍などがないことを確認します。
椎間板ヘルニアの確定診断には全身麻酔下での精密検査が必要であり、脊髄造影レントゲン検査やCT検査、MRI検査を行う必要があります。これらの高度画像検査は実施できる施設が限られるため、早期の検査を希望する場合には注意が必要です。当院では脊髄造影レントゲン検査とCT検査が実施可能です(図2)。
図2:脊髄造影レントゲン検査
運動失調や麻痺の程度、後肢の痛覚の有無により5つのグレードに分類され、各グレードの治療成績は以下の通りです。
Grade | 症状 | 保存療法による 回復率 |
手術による 回復率 |
PMM 発症率 |
---|---|---|---|---|
1 | 痛みのみで麻痺がない | ー | ー | ー |
2 | 完全に麻痺はしておらず、 ふらつきながら歩行可能 |
72.5%(n=116) | 98.4%(n=318) | 0% |
3 | 完全に麻痺はしていないが、 歩行は不可能 |
79.8%(n=74) | 93%(n=341) | 0.6% |
4 | 完全に麻痺しているが、 強い痛みは感じられる |
56%(n=77) | 93%(n=548) | 2.7% |
5 | 完全に麻痺しており、 強い痛みも感じない |
22.4%(n=48) | 61%(n=502) | 13.9% |
Olby NJ, et al. Prognostic Factors in Canine Acute Intervertebral Disc Disease. Front. Vet. Sci. November 2020 Volume 7
また、高グレードの症例において注意しなければならない合併症に進行性脊髄軟化症(PMM)があります。これは急性脊髄障害に続発する脊髄の出血性/虚血性壊死と考えられており、非常に強い痛みや、進行性の神経症状を特徴とします。
従来PMMは治療法が無く致死的とされていましたが、受傷後すみやかに広範囲の減圧手術を行うことで救命が可能であると2020年末に報告されました。これは重要な発見です。
R Hirano,et al. Outcomes of extensive hemilaminectomy with durotomy on dogs with presumptive progressive myelomalacia: retrospective study on 34 cases. BMC Vet Res. December 2020 7; 16(1)
これらの新たな知見を踏まえ、当院では共有部椎間板ヘルニアの治療方針をご提案しています。